幸福論

1969年12月25日初版(定価550円) 筑摩書房/装丁:栗津潔


目次:

マッチ箱の中のロビンソンクルーソー
肉体
演技
出会い

偶然
歴史
おさらばの周辺部


従来の「幸福論」は、ほとんど書物の中に構築されている思想であった。そして、アランやヒルティに限らず、ボナールの「友情論」や武者小路実篤、亀井勝一郎その他の幸福哲学は、一言でいえばどれも心に唯したものばかりで、まるで、羊毛が紅に染められるように、人生が幸福で染められていくような、美しさにあふれていた。それは、いとことでいえば人格的関係から世界を見るための明式学の学習である。「ともに人生を談ずる一団の友は、高原をそぞろ歩きする人々のようなものである。(中略)」(ボナール「友情論」)。こうした、美文調は大部分の幸福論に見られる共通の傾向である。だが、と私は考える。ヤサグレとかオマンコとか、ヒンメクレとかヤチバと言ったスラングを用いている裏町の「思想家」たちには、幸福論について語る資格はないのか。「おまえ。おれ」どころか「こん野郎」「あほったれ」と呼び合っている人たち、まるで、書物など読むことのない人たちにとって、幸福論の、論とは何なのであろうか


あとがきはなし。「おさらばの周辺部」という項では、次の質問で終わっています。

 あなたは無人島で一人でくらせますか?
 二人ならばくらせますか?

 腹が立ったときにどうやってしずめますか?

 自分の思想と他人の思想との比較に興味を覚えますか?

 自分の性器と他人の思想との比較に興味を覚えますか?

 自分自身は悲劇的ですか、喜劇的ですか?

 政治解放の次に何の解放を求めますか?

 生成が必然的であると思いますか?

 性行為中に、相手のオーガスムをたしかめますか?

 空の星を数えたことがありますか?

 人に好かれていると思いますか?

 幸福ですか?

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