Aphorism(050~)

友情というのは、いわば「魂のキャッチボール」である。
一人だけ長くボールをあたためておくことは許されない。
受け取ったら投げ返す。
そのボールが空に描く弧が大きければ大きいほど
受けとるときの手ごたえもずっしりと重いというわけである。
それは現在人が失い欠けている「対話」を回復するための精神のスポーツである。
恋愛は、結婚に形を変えたとたんに消えてしまうこともあるが、
友情は決して何にも形をかえることができない。
Aphorism-051「人生なればこそ」

戦争中に「少年倶楽部」を読みかけ、戦後、次のページをめくったら
そこには廃墟のグラビアしかなかった。
Aphorism-052「浪漫時代」

時計の針が
前にすすむと「時間」になります。
後にすすむと「想い出」になります。
Aphorism-053「思いださないで」

かなしみは
いつも外から
見送っていたい
Aphorism-054「愛さないの愛せないの」

消しゴムがかなしいのは
いつもないか消してゆくだけで
だんだんと多くのものが失われてゆき
決して
ふえるということがないということです
Aphorism-055「赤糸で縫いとじられた物語」

どこの国にでも、どんな祭りでも
にぎやかなところは、なぜか侘びしさがつきまとう。
提灯もって、橋を渡ってゆくおんなの子。
月見草はまだ咲いていないよ、いまはまだ冬だから。
Aphorism-056「花嫁化鳥」

不条理とは人と神との葛藤から生まれる悲劇だが、
愛怨などしょせん、等身大の人間同士の葛藤にすぎない。
Aphorism-057「黄金時代」

なみだは人間の作る一番小さな海です。
Aphorism-058「人魚姫」

不幸な物語のあとには、
かならず幸福な人生が出番を待っています。
Aphorism-059「猫の航海日誌」

一口で言えば、「幸福」というものは、現在的なものである。
それは時代をコードネームにして演奏される、
モダンジャズのインプロビゼーションを思わせる・
「幸福」を書物によってとらえようとすれば、書物の歴史性が邪魔をするというのが、
私の考えだ。
Aphorism-060「幸福論」

「目玉なんて何もなりゃしない。革命を遠くから、見ているだけだ。
大切なのは心臓だけだ」
Aphorism-061「千一夜物語・新宿版」

現実にはつねに二通りがあります。
sの一つは「あるがままの現実」であり、
もう一つは「のぞましい現実」です。人が歌や文学のなかに見出そうとするのは、
つねに「のぞましい現実」への足がかりにほかなりません。
Aphorism-062「家出のすすめ」

現代は「足的時代」にさしかかっている。
それは人間の歴史が、道具を発見し、
そしてそれを使いこなすことで産業を生み出してきた「手的時代」にとってかわるものである。
「手は作るが、足は作らない」
べつのことばでいえば手は、生産的だが、足は消費的である。
Aphorism-063「書を捨てよ、町へ出よう」

私は「天動説」には反対だが「地動説」にもまた反対なのだ。
もしも地球がすばらしい速度で宇宙を暴走するフットボールであるならべ
「地球を止めてくれ。俺はおりたい」と言いたくなる。
Aphorism-064「ヨーロッパ零年」

ホワイトニグロというのがある。自分が白人なのに黒人に同情し、
黒人の仲間に入って、黒人解放の問題に熱中し、黒人の立場に立つ。
一種の原罪意識から出ているんだけど、
そのため、白人からは「あいつは黒だ」と言われ、
黒人からもやっぱり、「あいつには、本当のおれたちのことなんかわからないんだ」と疎外される。
同じように、南にいて北を思う人間も、北に生まれて北を捨てた人間も、
常に内部に欠落を持ち続けることになる。
それは一種の太宰治的な「うしろめたさ」だと思う。
そういううしろめたさを何かによって埋め合わせようとする。
Aphorism-065「浪漫時代」

「幸福というのは、いつもおびえながら、人目をしのんで味わわなければ
いけないものだろうか?」
Aphorism-066「犬神」

かくれんぼの鬼に角がないのはなぜだろうか?
Aphorism-067「ロンググッドバイ」

「この写真機のレンズの焦点をあわせるように、
予測される未来の長さも自由に調節できればいいのにな」
Aphorism-068「赤糸で縫いとじられた物語」

「人間の肉体は鍵のかからない密室です」
Aphorism-069「疫病流行記」

「誰かがふとりはじめると、べつの所で誰かがやせはじめる」
Aphorism-070「大山デブ子の犯罪」

ジャズは、それ自体ですごく雄弁だ。
Aphorism-071「密室から市街へ」

私は化粧する女が好きです。
そこには、虚構によって現実を乗り切ろうとするエネルギーが感じられます。
そしてまた化粧はゲームでもあります。
顔をまっ白に塗りつぶした女には
「たかが人生じゃないの」
というほどの余裕も感じられます。
Aphorism-072「青女論」

「男は売買のできない品物である。魂だけが、いくらかになる。
たぶん、五百円くらいのねうちはあるだろう」
Aphorism-073「サード」

一番面白い劇はは何か、と訊かれたら、私は、たちどころに「歴史」と答えるだろう。Aphorism-074「迷路と死海」

性行為は演出され、ときには音楽や詩、ときには虚構によって彩られ、
それ自体がたのしみであり、消費であり、「出会い」であるのです。
Aphorism-075「青女論」