マルのピアノにのせて

マルのピアノにのせて
時速一〇〇キロで大声で読まれるべき
六五行のアメリカ


アメリカよ

小雨けむる俺の安アパートの壁に貼られた一万の地図よ
そして
その地図の中のケンタッキー州ルイスビルに消えて行った
二年前の俺のぬけがら
チャーリー・パーカーのレコードの古疵を撫でる
後悔と侮蔑の 英文科二年生秋本昇一の 二十年間の醒めない悪夢よ
そしてまた 二度と帰還することのないB29
草の葉の死んでしまったのだ
ジェームス・ディーンの机の抽出しに
いまも忘れられている模型飛行機のカタログよ
歌うな数えよ 数だけが政治化されるのだ
プエルトリカンの洗濯干場の十万の汚れたシーツよ
時代なんかじゃなかった 飛べば空なのだ、すっぽりと
涙よ アメリカにも空があって
エンパイヤーステートビルから 俺の心臓まで
死よりも重いオモリを突き刺すパンアメリカン航空のカレンダーよ
キリーロフは見捨て 圭子はあこがれる
ジャック・アンド・ペティのマイホーム
ニューギニアの海戦で俺の父親を殺したアメリカよ
コカコーラはビル街を大洪水にたたきこむ
カーク・ダグラスの顎のわれ目のアメリカ
マルクス兄弟の母国のアメリカ
ホットドッグにはさまれたソーセージが唸り立つ勃起のアメリカ
老人ホームの犬は芸当が得意な、おさらばのアメリカよ
大列車強盗ジェシー・ジェームズのアメリカ
できるならば
そのおさねを舐めてみたいナタリー・ウッドのアメリカ
カシアス・クレイことモハメッド・アリが
キャデラックにのって詩を書くアメリカ
百万人の唖たちの「心の旅路」のアメリカ
そしてヴェトナムでは虐殺のアメリカよ
見えるか スタッティアイランド
あこがれの摩天楼を遠望しながら
二人ぼっちで棒つきキャンディをしゃぶった
ジェーンとその兄のアメリカよ
あかまのジェームス・ボールドウィンは
なぜ白人としか寝ないのだアメリカ
LCD5ドルで天国のアメリカ
マンホール工事は墓堀り仕事のニックの孤独なアメリカよ
ホーン・アンド・ハーダーで15セントのコーヒーばかり啜る
ユダヤ人のワインベルグはいつ母親を売りとばすのか
そしてまたアーチ・シップは
眼帯をかけて叩きまくる半分のアメリカよ
今日もハリウッドの邸宅のプールで泳ぐ
老女優べティ・デヴィスの最後のメンスよ
星条旗よ 永遠なれ アメリカよ アメリカよ
それはあまりにも近くて遠い政治化
ラッキーストライクの日の丸を撃つために駅馬車は旅立つ
カマンナ・マイ・ハウスのアメリカよ
地図にありながら 幻のアメリカよ
遙かなる大西部の家なき子 それは過去だ
あらゆるユートピアはいかり肩で立ちあがる
鷹がくわえた死の翳のアメリカ
醒めるのだ 歌いながら 今すぐにアメリカよ

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